LINE連載 「虎震(トラブル)家の悩める人々~ゆき子の憂鬱(認知症への不安)編」アーカイブ(#1〜#4)
公式LINEで連載配信している「虎震(トラブル)家の悩める人々~ゆき子の憂鬱(認知症への不安)編」のアーカイブページです。
各エピソードの概要と共に、相続に関するトラブルやその解決策を学ぶことができます。気になるエピソードをチェックし、ぜひLINEでの連載配信にもご登録ください!
目次
虎震(トラブル)家の悩める人々~ゆき子の憂鬱(認知症への不安)①

山奥のマタギである清六の妹、加賀美(かがみ)ゆき子。
現在83歳の彼女は、数年前に夫を亡くし、現在は一人暮らしをしています。
気丈な人柄でしたが、最近は物忘れが増え、周りの人からもそれとなく指摘を受け、
「もしかして認知症かも…」
という不安を強く感じていました。
ゆき子には一人娘の明子(あきこ)がいますが、ずいぶん前に折り合いが悪くなり、いまは音信不通に近い状態。財産管理や施設の手配などをお願いしたいと思っても、連絡する気になれません。
ある日、意を決したゆき子は、甥である二郎に電話をかけます。
「二郎さん…久しぶりね。ちょっと相談があるの。最近、物忘れがひどくなったきたみたいで、一人暮らしももう限界に感じるのよ…。家を売って、施設に入ろうかと思ってるんだけど、どう思う?」
震える声からは、頼る相手がいない不安がにじみ出ています。
「家を売って施設? 叔母さん、本気?」
二郎は驚きながらも訊きました。
「ええ、本気よ」
「明子ちゃんに相談したの?実の娘じゃない!?」
「いや、明子には頼れないわ。あの子、私のこと厄介者だと思っているから…。」
寂しそうにゆき子が答えました。
二郎はゆき子の真剣さを察し、
「わかった。まずはうちの一族が世話になっている専門家に相談しよう。ひとりで抱え込まないほうがいいよ」 と声をかけました。
そこで二郎は、いつも助けを求めている郷行政書士に連絡を入れ、ゆき子を連れていく手はずを整えます。
「まずは話をきちんと整理しましょう。明子ちゃんとの関係はどうするか、施設の手続きはどうするか…」
こうして、財産管理や認知症への不安を抱えたゆき子の物語が、新たな問題を含みながら動き出すことになったのです。
虎震(トラブル)家の悩める人々~ゆき子の憂鬱(認知症への不安)②

二郎に付き添われ、ゆき子は郷行政書士の事務所を訪れました。
郷はゆき子の状況を聞き取りながら問題点を整理します。
「まず、失礼ながら、ゆき子さんの判断能力が今後さらに低下していくと仮定すると…契約行為自体を単独ですることが難しくなります。そうすると、施設に入居するとしても、家を売ったり、各種契約手続きをしたりするのが難しくなっていくでしょう。」
「そこでおすすめしたいのが“家族信託”です。」
郷は書類を取り出しながら続けます。
「家族信託は、財産を信頼できる方(受託者)に管理や処分を任せる仕組みです。例えば、ゆき子さんが委託者として自宅やお金を信託し権限を受託者に与えれば、ゆき子さんの判断能力が低下しても、受託者が契約手続きや施設への支払いなどを代わりに行えます。 裁判所が関与する任意後見契約と比べ、家族間で柔軟に設定できる点が魅力です。」
「そんな方法があるんですね…!」
ゆき子は少しだけほっとした様子を見せます。
二郎も「これなら叔母さんの意思を尊重しながら動けそうだ」と安堵の表情を浮かべます。
郷が続けます。
「が、しかし、ゆき子さんの場合は問題があります。今のところ、めぼしい受託者がいない、ということです。特に、娘さんの明子さんとは折り合いが悪く、ゆき子さんに受託者を頼める状況ではないご様子ですね?」
ゆき子はうなだれながら答えました。
「そうなんです…。そして、二郎さんにお願いしたくても、清六兄さんの件で手一杯ですし…。もう私ひとりではどうにもならなくて…」
「そうですね。少し多方面からの検討が必要ですね。」
郷は冷静に答えました。
こうして、ゆき子の不安を解消するための糸口として、家族信託が具体的な選択肢に浮上しました。
果たして誰が受託者となり、どのように話を進めていくのか?ゆき子の今後を巡る新たな一歩が始まろうとしています。
虎震(トラブル)家の悩める人々~ゆき子の憂鬱(認知症への不安)③

郷行政書士の事務所で、ゆき子と二郎は家族信託の話を続けていました。
ゆき子は「誰かに受託者をお願いしたい」と考えていたものの、二郎以外の親戚とはほとんど交流がありません。
二郎本人は清六の件で手が離せないため、受託者にはなれない状況です。
「他の甥や姪には頼みたくないんです。面倒をかけるのも気が引けますし、以前からあまり交流もなくて…」
ゆき子の表情は曇っていました。
郷は静かに頷きながら、手元の資料を確認してから言葉を選びます。
「家族信託には受託者が必須です。誰かに報酬を払って頼みたいところですが、法人や個人が報酬を受け取って受託者になることは、信託法上認められていません。だから、基本的には無償で協力してくれる方を探す必要があります。商事信託という選択肢もなくはないのですが、大手の信託銀行などに個別の不動産売却だけを託すのは、なじまないケースが多いのです。」
ゆき子はさらに困り果てた様子を見せました。
「どうしよう…。私、ほんとに誰にも頼めなくて…。このままだと施設に入るための手続きが進まないわ…」
すると二郎が口火を切ります。
「叔母さん、思い切って明子ちゃんに連絡してみたら?お互いに距離を置いてきたけど、今こそ仲直りするチャンスかもしれないよ!」
思わぬ提案にゆき子は目を丸くし、すぐに否定しかけましたが、最後には言葉に詰まってしまいます。すると郷が、あたたかい口調で助け舟を出しました。
「そうですよ。ダメ元でも、連絡してみる価値はあると思います。もし話しづらければ、まずは二郎さんから明子さんに声をかけてもらう方法もあります。 状況をきちんと伝えて、お二人が直接会える環境を作れれば、受託者を引き受けてもらえる可能性も出てくるかもしれません。」
親子の断絶を埋める第一歩として、明子に連絡する。それが今のゆき子にとって、最善の策なのかもしれない。
ゆき子は戸惑いながらも、二郎や郷の言葉に一縷の望みを感じていました。
虎震(トラブル)家の悩める人々~ゆき子の憂鬱(認知症への不安)④

郷行政書士の事務所で、家族信託の候補となる“受託者”が見つからず途方に暮れたゆき子。
そこで二郎と郷は「ダメ元でも明子さんに連絡してみましょう」と勧めました。
翌日、二郎は意を決して明子の連絡先に電話をかけます。
かなり久しぶりだったせいか、少しの間コール音が続いた後、ようやく明子の声が聞こえてきました。
「…二郎さん? 何かあったの?」
やや警戒した響きに、二郎は一瞬言葉を詰まらせますが、なるべく冷静に要件を伝えます。
「実は、叔母さんのことで相談があるんだ。家を売って施設に入りたいらしいんだけど、受託者になってくれる人が見つからなくて…。もし良ければ、一度会って話をしてもらえないかな?」
一方、明子の反応は鈍く、言葉少なに「今さら何を…」とつぶやくだけ。
しかし、二郎が「ゆき子さんもずいぶん弱っている。このままでは何もできなくて困る」と懸命に説得すると、しばし沈黙の後、「分かった、少し考えてみる」とだけ答えて電話を切りました。
その報告を受けたゆき子は、表情を曇らせながらも、どこかホッとした様子を見せます。
「まだ確実じゃないけど、明子が考えてくれるだけでも少しうれしいわ…。でも、本当に受託者を引き受けてくれるのかしら…」
そんなゆき子を見て、郷は優しく声をかけました。
「まずは会ってお話ししてみることが大切ですよ。わだかまりがあったとしても、実際に顔を合わせればお互いに気持ちが変わるかもしれません。それに、ゆき子さんの正直な想いを伝えてみるだけでも、大きな一歩になると思います。」
こうして、長らく疎遠だった母娘が再び向き合うきっかけが生まれました。ゆき子の不安はまだ消えませんが、少しだけ未来が動き出そうとしています。
果たして明子の出方は――。
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