LINE連載 「虎震(トラブル)家の悩める人々~郷の回想(困ったお客様)編」アーカイブ(#1〜#4)
公式LINEで連載配信している「虎震(トラブル)家の悩める人々~郷の回想(困ったお客様)編」のアーカイブページです。
各エピソードの概要と共に、相続に関するトラブルやその解決策を学ぶことができます。気になるエピソードをチェックし、ぜひLINEでの連載配信にもご登録ください!
目次
虎震(トラブル)家の悩める人々~郷の回想(困ったお客様)①

「あのとき、もう一歩だけ早ければ……」
郷行政書士は、ある一人の依頼者を思い出していた。
生駒(いこま)家の長老、生駒 武雄。 資産家で不動産も多く、周囲からは“早く遺言を”と何年も促されていた。
しかし本人は、「まだ大丈夫」「そんなに急がなくても」と笑い飛ばすばかり。
ご家族も根負けし、相談も途絶えていた。
ある日、ようやく武雄氏から連絡が入る。
「そろそろ本気で頼むわ、郷先生」
その声には覚悟が滲んでいた。
初回の面談日も決まり、資料の準備にも取りかかった——その矢先だった。
武雄氏は、自宅で脳梗塞を起こし、救急搬送。二日後、意識が戻ることなく息を引き取った。
その後、残された相続人たちによる遺産分割協議が始まったが、そこで想定外の事実が判明する。
武雄氏がかつて認知していた隠し子の存在。
戸籍を調べていた長女が、静かに語った。
「……父に、私たちの知らない息子がいたのです。」
長男は激昂し、次女は涙をこらえた。
争いの火種は、あっという間に燃え広がった。揉めに揉め、裁判まで発展したのだった。
郷は静かに呟く。
「生前対策は、“思い立ったが吉日”なんだよな・・・」
相続は、残された人たちの人生にも大きく影を落とす。その重みを、郷は今も忘れていない。
虎震(トラブル)家の悩める人々~郷の回想(困ったお客様)②
「遺産よりも親の気持ちを」〜介護を巡る感情のもつれ〜

「法定通り。それが公平だとは限らない」
郷行政書士がふと口にしたこの言葉は、今でも自分に向けて投げかけている言葉でもある。
鈴木家の次男・康晴(やすはる)さんが事務所を訪れたのは、父親・清三さんが亡くなった翌月のことだった。
手続きの相談かと思いきや、怒りと悲しみを滲ませた表情でこう言った。
「僕ら夫婦が10年、介護してきたんです。それなのに、財産は他の兄妹と“平等”なんて……親父の気持ちは、どうなるんですか?」
清三さんには子どもが3人。康晴さんと、遠方に嫁いだ二人の妹。
妹たちは冷静にこう言った。
「お兄ちゃん、ありがとう。でも法律では三分の一ずつって決まってるから。」
確かに、遺言はなかった。介護の事実をどう評価するかも、相続法上は曖昧だ。弁護士を立てて争うには証拠も足りない。
郷も無力だった。
「僕は……何のために、あれだけ尽くしたんでしょう。」
康晴さんの声には、疲労と絶望がにじんでいた。
郷は何度も「生前にご家族で話し合いを」と提案してきたが、「うちは仲がいいから大丈夫です」と言われ続けてきたのだった。
あのとき、清三さんが「少しだけでも、気持ちを書き残してくれていれば…」
——そう思わずにはいられない。
人の気持ちは、法律だけでは計れない。
だからこそ、「争族」を防ぐには、遺言が必要なのだ。
郷はそう、しみじみと振り返る。
虎震(トラブル)家の悩める人々~郷の回想(困ったお客様)③
「それは本当に贈与なの?」〜贈与には証拠が必要〜

「父さんは“生前にくれる”と言ってたんです。口頭でしたけど、確かに……。」
郷行政書士の前で、虎震家の三男・直之は何度もそう繰り返した。
手には父・重助さんの古びた通帳。 通帳を調べてみると、亡くなる直前の2年間で、定期預金から毎月数十万円ずつ現金が引き出されていた。
その金額、総額で1,200万円近く。
直之さんはこう主張した。
「同居していた僕に、生活費として“あげる”って言ってたんですよ。だから贈与です。」
だが、兄の一郎さんと妹の佳奈さんは納得しない。
「生活費って言いながら、そのお金で自分の車買ってたじゃない!」 「父さんの口座から無断で引き出してたとしか思えない!」
遺言もなければ贈与契約書もない。印鑑も暗証番号も、高齢の重助さんがATM操作をしたのか、他の誰かが代わりに操作したのか、もはや証明のしようがなかった。
「“もらった”つもりでも、法律上は“あげた証拠”が必要です。」
郷は、そう静かに説明した。
結局、この問題は家庭裁判所での調停に持ち込まれることとなった。
兄妹関係は、壊れたままだ ——
証拠のない贈与はなかなか認められにくい。
だからこそ、元気なうちの“意思の記録”が何より大切なのだ。
「通帳の中身より、何より証拠なのだ」
郷は、その一件を思い返すたび、そう自らに言い聞かせる。
虎震(トラブル)家の悩める人々~郷の回想(困ったお客様)④
「うちは仲がいいから大丈夫」〜仲良し三姉妹の落とし穴〜

「先生、私たち本当に仲が良いんです。だから“争族”にはなりませんから、大丈夫です!」
虎震家の三女・美佐さんは、そう笑って言った。
長女の恵子さんも次女の智恵さんも、郷の前でうなずいていた。
郷が遺言や分割協議の準備を提案しても、3人とも
「後でゆっくり話しますから」とやんわりかわしていた。
父・忠義さんは地元で長年工務店を営み、自宅兼事務所と少しばかりの土地を遺して亡くなった。
遺言書はなかったが、三姉妹の関係性はとても良く、郷も当初は安心していた。
しかし、事態が動いたのは、忠義さんの死後7か月が過ぎたころ。
相続税の申告期限(10か月以内)が迫る中で、まだ遺産分割協議がまとまっていないという連絡が入った。
理由は些細なことだった。
「姉の夫が細かい人で、遺産分割協議書の書き方に細かく口を出してくるんです!」
「妹が“土地はみんなで共有でいい”って言うから、それも困っていて……」
結局、意見調整に時間がかかり、申告期限に間に合わなかったのだ。
結果として、自宅土地に適用できたはずの“小規模宅地等の特例”が使えず、数百万円の相続税が余計に発生した。
のちに、話し合いをまとめ、修正申告をすることとなった。
3人は顔を見合わせて沈黙した。
「争ってはいない。でも、“まとまらなかった”だけで、損をすることがあるんです。」
郷はそう伝えると、恵子さんがつぶやいた。
「もっと早く……父が元気なうちに、準備しておけばよかった」
仲がいいことは、素晴らしい。 だが、それだけでは、制度の壁を越えられないこともある。
その日以来、郷は「仲が良いからこそ早く決めよう」と、必ず伝えるようになった。
相続に関するトラブルやその解決策を学ぶことができる事例を、LINEでの連載配信しています!ぜひ、ご登録ください!