おしどり贈与とは?婚姻20年以上の配偶者控除で賢く対策
おしどり贈与は、婚姻期間が20年以上の夫婦が利用できる、相続税の大幅な対策手段です。本記事では、おしどり贈与の基礎からその活用方法、さらに専門家の役割についてわかりやすく解説します。相続税対策として有効なおしどり贈与について知りたい方はぜひ参考にしてください。
おしどり贈与とは?
おしどり贈与の概要と適用条件
おしどり贈与とは、正式には「贈与税の配偶者控除」と呼ばれる税制優遇制度です。この制度は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で行われる贈与に対して適用され、最大で2,110万円までの贈与が非課税となるという非常に有利な制度です。特に、居住用不動産やその購入資金を贈与する場合に利用されることが多く、贈与された財産は通常の贈与税とは異なり、特別な扱いを受けます。
適用条件としては、まず夫婦が20年以上婚姻関係にあることが必須です。また、贈与の対象となるのは居住用不動産、もしくはその購入資金に限られます。この不動産は、贈与を受けた配偶者が実際に居住することが前提となり、贈与後もその配偶者が引き続きその不動産に住み続けることが条件とされています。
配偶者控除とは?贈与税との関係
配偶者控除は、一般的な贈与税の基礎控除額である年間110万円を大きく超える金額を贈与しても、一定額まで非課税となる特別控除です。おしどり贈与では、この配偶者控除が適用され、最大で2,110万円までが非課税となります。この金額には、通常の基礎控除額110万円も含まれており、残りの2,000万円が追加の控除として認められる形になります。
この制度の大きな特徴は、贈与税の負担を大幅に軽減できることです。通常、贈与税は贈与額に対して非常に高い税率が適用されるため、多額の財産を贈与する際には大きな負担となります。しかし、おしどり贈与を利用することで、配偶者に対して相当額の財産を無税で移転することができ、相続税対策としても非常に有効です。
なぜ「おしどり贈与」が注目されるのか
おしどり贈与が注目される理由は、その高い相続税対策効果にあります。夫婦間で財産に大きな偏りがある場合、この制度を利用することで、将来発生する相続税を大幅に軽減することが可能です。例えば、夫が多額の不動産を所有している場合、その不動産を生前に妻に贈与することで、夫の死後にかかる相続税を減らすことができます。
また、贈与後に妻の名義となる不動産は、夫の相続財産から除外されるため、相続人間での財産分配がスムーズに進むことが期待されます。さらに、おしどり贈与は、相続開始前7年以内の贈与財産の持ち戻しが不要である点も大きなメリットです。これにより、相続発生直前に行った贈与でも、贈与の効果がそのまま残るため、非常に効率的な相続税対策となります。
おしどり贈与のメリットとデメリット
おしどり贈与の主なメリット:相続税対策としての効果
おしどり贈与の最大のメリットは、相続税対策としての高い効果です。具体的には、財産を配偶者に生前贈与することで、将来の相続税の負担を大幅に軽減することができます。特に、財産の大部分を所有する配偶者が早期に亡くなるリスクがある場合、この制度を利用して財産を分散させることで、相続税の基礎控除を有効に活用できます。
また、おしどり贈与は、配偶者控除により2,110万円までの贈与が非課税となるため、高額な不動産やその他の財産を贈与する際に非常に有利です。これにより、相続発生時に贈与税が発生しない範囲で、多額の財産を移転することが可能となります。さらに、配偶者間の財産のバランスを取ることで、相続時の遺産分割が円滑に行われ、相続トラブルの回避にもつながります。
おしどり贈与のデメリット:注意点とリスク
しかし、おしどり贈与にはいくつかのデメリットやリスクも存在します。まず、贈与された財産が相続時に特別受益として扱われることは少ないものの、他の相続人から不公平と感じられる可能性があります。特に、贈与された財産が非常に高額である場合、他の相続人との間でトラブルが発生するリスクが高まります。
また、居住用不動産の贈与には、不動産取得税や登録免許税などの税金が発生します。これらの費用は不動産の評価額によって異なりますが、通常は数十万円から数百万円に達することがあります。さらに、贈与後に配偶者がすぐに亡くなった場合、贈与の効果が十分に発揮されず、相続税の軽減が期待できなくなるリスクも考えられます。このため、贈与のタイミングや方法については慎重に検討する必要があります。
相続税対策効果を最大限にするためのポイント
おしどり贈与を効果的に活用するためには、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。まず、贈与するタイミングが重要です。相続発生の直前ではなく、早めに計画を立てて贈与を行うことで、相続税の軽減効果を最大限に引き出すことができます。また、贈与後も贈与された配偶者がその不動産に居住し続けることが条件となるため、この点をしっかりと確認しておくことが必要です。
さらに、他の相続税対策と組み合わせることで、より効果的な対策を講じることができます。例えば、生命保険を活用して相続税の非課税枠を活用したり、養子縁組による法定相続人の増加を図ることで、相続税の基礎控除額を引き上げることができます。これにより、総合的な相続税対策としての効果を高めることが可能です。最適な対策を選ぶためには、専門家と相談しながら進めることが重要です。
おしどり贈与の具体的な活用方法
居住用不動産の贈与:適用ケースと手続き
おしどり贈与は、主に居住用不動産を対象とした贈与に利用されます。この贈与は、贈与税の配偶者控除が適用されるため、非常に高額な財産を非課税で配偶者に贈与することができます。例えば、夫が所有する自宅を妻に贈与するケースでは、この制度を利用することで、贈与税が2,110万円まで非課税となり、大きな節税効果が期待できます。
手続きとしては、まず贈与契約書を作成し、その後、司法書士の支援を受けて不動産の登記変更を行います。この登記変更は、贈与契約に基づいて所有権を妻に移転する手続きであり、これにより妻の名義で不動産を所有することができます。登記には登録免許税がかかるため、事前に費用が必要になります。
また、登記変更が完了したら、贈与税の申告を行う必要があります。贈与税の申告は、贈与を行った年の翌年2月1日から3月15日までの期間に行う必要があります。この申告を忘れると、税務署からの追徴課税が発生する可能性があるため、注意が必要です。
贈与契約書を作成する際には、契約内容を明確にし、将来のトラブルを避けるために専門家のアドバイスを受けることが重要です。特に、不動産の評価額を正確に把握し、それに基づいた契約を結ぶことで、贈与後に予期しない費用が発生するリスクを軽減できます。また、登記手続きにおいても、司法書士のサポートを受けることで、スムーズかつ確実に名義変更を行うことができます。
居住用不動産の贈与においては、贈与後も贈与された配偶者がその不動産に居住し続けることが求められます。この要件を満たすことで、贈与税の非課税枠が適用され、相続税対策としての効果を最大限に引き出すことが可能です。ただし、配偶者が贈与後すぐに不動産を売却したり、他の場所に引っ越したりする場合には、この要件が満たされなくなる可能性があるため、注意が必要です。
配偶者への生前贈与としての活用方法
おしどり贈与は、生前贈与としての活用も非常に有効です。生前贈与とは、相続発生前に財産を配偶者や子供などに贈与することで、相続税の負担を軽減する方法です。おしどり贈与を生前贈与として活用することで、相続時に発生する税金を大幅に減らすことができます。
例えば、高齢の夫が所有する資産を妻に生前贈与し、その資産を妻が管理することで、夫の死後に相続税の負担を軽減できます。これは、夫が生前に贈与を行うことで、夫の死亡時にその資産が相続財産として計算されることを避けるためです。この方法により、相続税の課税対象となる財産の総額を減らし、家族全体の税負担を抑えることが可能です。
他の相続税対策との組み合わせ方
おしどり贈与は、他の相続税対策と組み合わせることで、さらに効果を高めることができます。例えば、生命保険を活用した相続税対策と組み合わせることで、相続税の非課税枠を最大限に活用することが可能です。生命保険の死亡保険金は、法定相続人一人につき500万円までが非課税となるため、おしどり贈与と合わせて利用することで、大幅な税負担軽減が期待できます。
専門家の役割
税理士の役割
おしどり贈与を行う際には、税理士のサポートが欠かせません。税理士は、贈与税の申告に関する専門的な知識を持ち、正確な申告書の作成をサポートします。贈与税の申告は、贈与を行った年の翌年2月1日から3月15日までに行わなければならず、申告を怠ると税務署からの追徴課税が発生する可能性があります。
税理士は、贈与税の申告書作成において、贈与された財産の評価額を正確に算出し、適切な税務処理を行います。特に、不動産の評価額は市場価格や固定資産税評価額に基づいて算出されるため、専門的な知識が必要です。また、贈与税の非課税枠や控除額を最大限に活用するためには、税理士のアドバイスが非常に重要です。
司法書士の役割
司法書士は、おしどり贈与において不動産の登記手続きを行う重要な役割を担います。居住用不動産を贈与する場合、その所有者の名義変更が必要です。この名義変更を正確かつ迅速に行うためには、司法書士の専門知識と経験が不可欠です。
登記手続きは、贈与契約書に基づいて所有権を移転する手続きであり、贈与を受けた配偶者が新しい所有者として登記されます。この手続きには、登記申請書の作成や必要書類の提出が含まれ、登記簿の変更が完了するまでに数週間から1ヶ月くらいかかることがあります。司法書士は、この一連の手続きをスムーズに進めるために、必要な書類の準備や提出を代理で行い、依頼者が安心して手続きを進められるようサポートします。
日本相続知財センター札幌の役割
日本相続知財センター札幌は、相続や贈与に関する専門的なサポートを提供する機関であり、おしどり贈与を成功させるために非常に有益な役割を果たします。センターでは、相続税や贈与税に関する高度な知識を持つ専門家が揃っており、依頼者が最適な相続・贈与計画を立てるための支援を行います。
具体的には、贈与計画の立案サポートから手続きの実行、さらには贈与後のフォローアップまでを一貫してサポートします。依頼者が贈与を行う際に直面する可能性のある税務上の問題や法的な課題についても、センターと提携している専門家が適切な解決策を提供します。特に、相続税対策としてのおしどり贈与の効果を最大限に引き出すためには、専門家のアドバイスが不可欠です。
よくある質問(Q&A)
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おしどり贈与は、一定の条件を満たす夫婦であれば誰でも利用できる制度です。具体的には、婚姻期間が20年以上の夫婦が対象となります。この条件を満たすことで、配偶者に対して居住用不動産やその購入資金を贈与する際に、贈与税の特別控除が適用され、最大2,110万円までの贈与が非課税となります。
ただし、贈与する財産が居住用不動産であることが前提となり、贈与を受けた配偶者がその不動産に実際に住み続けることが条件となります。このため、単に財産を移転するだけでなく、その後の居住計画も考慮した上で贈与を行うことが重要です。また、この制度を利用するには、贈与契約書の作成や税務申告など、一定の手続きを行う必要があるため、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
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通常、おしどり贈与で贈与された財産は、相続時に持ち戻しの対象にはなりません。これは、贈与税の配偶者控除が適用された財産については、相続時に特別受益として扱われないためです。つまり、おしどり贈与を利用することで、贈与した財産が相続財産に加算されることなく、配偶者にそのまま残ることになります。
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おしどり贈与と通常の贈与の大きな違いは、贈与税の非課税枠にあります。通常の贈与では、年間110万円までが非課税となる「基礎控除」が適用されますが、それを超える金額には贈与税がかかります。一方、おしどり贈与では、婚姻期間が20年以上の配偶者に対して居住用不動産やその購入資金を贈与する場合に、最大2,110万円までの非課税枠が適用されます。
このため、おしどり贈与を利用することで、通常の贈与では考えられない額の財産を非課税で移転することが可能となります。また、おしどり贈与は相続税対策としても非常に有効であり、将来の相続時にかかる税金を大幅に軽減する効果が期待できます。さらに、贈与後にその財産が相続財産に加算されないという点も、おしどり贈与の大きな特徴です。
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おしどり贈与を行う際には、さまざまな費用が発生します。まず考慮すべきは、不動産の登記手続きにかかる費用です。居住用不動産を贈与する場合、その不動産の名義変更が必要になります。この登記手続きには司法書士の支援が必要であり、司法書士への報酬が発生します。報酬額は物件の評価額や地域によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円が相場となります。
また、登記手続きには「登録免許税」も必要です。登録免許税は贈与される不動産の固定資産税評価額に基づいて計算され、税率は通常1.5%です。例えば、固定資産税評価額が1,000万円の不動産を贈与する場合、登録免許税は15万円となります。
さらに、不動産取得税も発生する可能性があります。この税金は不動産の評価額に応じて計算され、一般的に評価額の3%が適用されます。したがって、評価額が2,000万円の場合、不動産取得税は60万円となります。これらの税金は贈与税とは別に発生するものであり、贈与税が非課税となるおしどり贈与であっても、これらの税金の支払いが必要です。
その他にも、贈与税の申告にも費用がかかります。贈与税の申告は、贈与を行った年の翌年の2月1日から3月15日までの間に行わなければならず、この申告書の作成には税理士のサポートが必要になることが一般的です。税理士への報酬は、依頼する業務の内容や地域によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円程度かかります。
その他にも、贈与契約書の作成費用や、必要な書類の取得費用なども考慮する必要があります。これらの費用を全て合計すると、おしどり贈与を行うための総コストは数十万円から100万円以上になることもあります。また、贈与する不動産の評価額が高額である場合や、複雑な手続きを要する場合には、さらに費用がかさむ可能性があるので注意が必要です。
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おしどり贈与は多くのケースで有効な相続税対策となりますが、すべての状況において最適な選択とは限りません。以下に、おしどり贈与を慎重に検討すべきケースについて詳しく説明します。
まず、贈与後にすぐに相続が発生する可能性が高い場合です。おしどり贈与は、生前贈与として効果を発揮しますが、贈与後に贈与を受けた配偶者がすぐに亡くなるような場合には、贈与の効果が十分に発揮されない可能性があります。この場合、相続税の負担が軽減されないばかりか、贈与にかかった手続き費用が無駄になってしまうリスクもあります。そのため、贈与のタイミングについては、相続発生の見通しを考慮しながら慎重に決定する必要があります。
次に、家族間のコミュニケーションが不足している場合も注意が必要です。おしどり贈与を行うことで、将来の相続に大きな影響を与えることになります。そのため、家族全員がこの贈与の意図や効果を理解し、納得していることが重要です。事前に十分な話し合いを行い、家族全員が同意した上で贈与を行うことで、相続時のトラブルを回避することができます。
このように、おしどり贈与を利用する際には、そのメリットとデメリットを十分に理解し、家族の状況や将来の見通しを考慮した上で慎重に判断することが求められます。専門家のアドバイスを受けながら最適な選択を行い、家族全員が満足する形で財産を引き継ぐことが重要です。
この記事の監修者
税理士法人 中野会計事務所
税理士 湯山 啓太
大学卒業後、複数の会計事務所において法人税業務に加え、個人および法人の相続・贈与・事業承継などの資産税業務の担当として勤務したのち、2019年10月より税理士法人中野会計事務所に所属。千葉県税理士会 所属、登録番号118096。相続税申告を数多く手掛け、個人から法人まで税務についての幅広いサービスを提供している。