LINE連載 「虎震(トラブル)家の悩める人々~伝説のマタギ・清六の決断編」アーカイブ(#5〜#8)
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目次
虎震(トラブル)家の悩める人々~伝説のマタギ・清六の決断⑤

郷行政書士の事務所に腰を下ろした清六は、遺言書の話を一通り聞き終え、改めて深いため息をつく。
次に取り掛かるのは“認知症になったときの対策”だというが、具体的には何をするのかピンときていないようだ。
「なあ、郷先生。わしがもし寝たきりや認知症になったりして、自分のことがまともにできなくなったら、どうすればええんじゃ?」
熊相手ならば何の躊躇もなく銃を構える清六だが、こればかりは知らない世界。
やや顔が強張っている。
郷行政書士は資料を取り出しながら、にこりと微笑む。
「清六さんのように、独身で頼りたい親族が限られている場合は、事前に“財産管理委任契約”と“任意後見契約”を結んでおくと安心です。受任者は二郎さんにするのがいいでしょう!」
「財産管理委任契約? 任意後見契約?」
清六の頭にクエスチョンマークがいくつも浮かぶのを見て、二郎が横から茶々を入れる。
「要は、将来叔父さんが自分で財産管理とか日常生活の手続きをできなくなったとき、僕が代わりにやるってことですね!」
「そういうことです。」と郷行政書士も頷きつつ、噛み砕いて説明を続ける。
「財産管理委任契約は、まだお元気なうちに、たとえば銀行での預金管理や公共料金の支払い、株式の売買などを“あなたに代わってやってもらう”人を指定する契約です。清六さんが認知症になってしまう前から効力を発揮します。」
「ほうほう。つまり、わしの代わりに二郎がメシの支度もしてくれるんか?」
「いえ、そこはちょっと違いますが……もし清六さんが望むなら、生活全般のサポートに関しても契約内容に盛り込むことは可能です。」
虎震(トラブル)家の悩める人々~伝説のマタギ・清六の決断⑥

郷行政書士から財産管理委任契約の説明を一通り受けた清六は、心配そうにさらに続けます。
「んじゃあ、わしが認知症になってわけわからん状況になったらどうなる?」
郷行政書士はさらにもう一枚の書類を示します。
「その場合に備えて、『任意後見契約』というものを二郎さんと結んでおきます。任意後見契約は“将来、判断能力が低下したら後見人に就任してもらう”という約束です。この契約が効力を発揮するには、家庭裁判所の手続きが必要ですが、その後、二郎さんが正式に清六さんの代理として、財産管理や各種手続きに携われるようになります。」
「な、なんじゃかややこしいのう。熊退治の方がよっぽど簡単じゃわい!」
清六は頭をかきながら苦笑いを漏らすが、二郎はまるで大発見でもしたように嬉しそうな顔だ。
「叔父さんのために僕がちゃんと手続きをするってことですね。分かりました。任せてください!」
二郎は頼もしい姿勢を見せます。
「こういった契約をしておけば、仮に清六さんが認知症になった場合でも、二郎さんが混乱なく財産を守れますから安心ですよ!」
郷行政書士の言葉に、清六もようやく納得した様子で大きく頷きます。
「わしの10億の株を悪いヤツに狙われんようにするには、ちゃんと契約しといたほうがええじゃろうなあ。」
二郎は笑みを浮かべ、元気よく応じる。
「任せてください、叔父さん。熊の追い払いは無理でも、詐欺の追い払いは任せてくださいよ!」
こうして、清六の人生設計はまた一歩前進しました。
山と熊と株で築き上げた財産を守るため、伝説のマタギは書類の波に挑むのでありました。
虎震(トラブル)家の悩める人々~伝説のマタギ・清六の決断⑦

前回、財産管理委任契約や任意後見契約について一通り説明を受けた清六は、どうやらホッとした様子。
しかし、ふと、さらなる不安が頭をよぎります。
「わしが死んだ後って、いろいろやることあるじゃろう?熊に食われて終わり…ってわけにもいかんからのう…。」
郷行政書士は笑顔でうなずきながら、「それなら、『死後事務委任契約』を検討してみませんか?」と新たな書類を取り出しました。
「『死後事務委任契約』とは、亡くなった後の葬儀や役所の手続き、公共料金の解約や病院の支払いなどの諸々の事務を誰かに任せるための契約ですよ。」
「なんじゃなんじゃ、死んだ後のことにまで契約がいるのか?熊退治よりややこしそうじゃな…。」
清六は自分の杖を軽くトントンしながら苦笑いを浮かべます。
すると二郎が口を挟みます。
「うちの叔父さん、山奥で何があるかわからないですからね…いきなり連絡が来ても、僕がどこから手をつけたらいいのか、わからなくなりそうです。」
「そうなんです、二郎さん!意外に葬儀や諸手続きって大変なんですよ。例えば、死亡届を役所に出すとか、携帯電話や各種契約の解約手続き、それに病院から渡される支払いや書類の精算…。
ご家族が混乱しないように、生前にこういう“事務作業はだれに任せるか”をはっきり決めておくと安心ですよ。」
郷行政書士は優しく説明を続けます。
「なるほどのう…。葬式なんぞ、わしは質素でいいと思っとるが、山の神さんに頼んで簡単に終わるわけにもいかんしな。やっぱり家族が困らんように段取りしておくべきか…。」
「はい、亡くなった後の希望を契約書に盛り込むことで、“清六さんの想いを形にする”ことができます。死後にどれだけ葬儀にお金をかけるか、誰に連絡するか、お墓はどうするのかなど、細かい部分まで記しておけば、残された方も混乱しませんよ!」
「そりゃありがたいのう…。じゃあ、それも二郎、頼むぞ!わしの山仲間にだけは、ちゃんと連絡してやってくれ。熊仲間は連れて来なくてええがの!(笑)」
虎震(トラブル)家の悩める人々~伝説のマタギ・清六の決断⑧

数か月後、遺言や財産管理委任契約、任意後見契約、死後事務委任契約をすべて整え、公正証書として残すことができた清六は、ほっとした表情を浮かべていました。
「ようやく、山の奥で熊と相打ちになっても、家族が困らんようにできたのう…。」
書類に押印を終えた清六は、どこか安堵した表情でしみじみとつぶやきます。
二郎はそんな叔父を見ながら、
「一連の手続きは大変だったけど、僕自身も勉強になりましたよ。もしもの時の準備って大事ですね!」と笑顔を見せました。
すると、清六が突然、
「ところで、ちょっと相談があるんじゃが…。」
と声を潜めます。
「なんですか?今度はどんな“まさか”の話ですか?」
郷行政書士が軽い調子で問いかけると、清六は意外な告白を始めました。
「実は…わしにはな、若い“彼女”がおるんじゃ。それも、実は…数人ばかり…。」
この言葉に、二郎は思わず目を丸くしてしまいます。
山奥で熊と戦う伝説のマタギとして畏れられていた清六が、実は街に出るたび“恋の武勇伝”まで築いていたとは…。
「実は、その娘たちにな…生前贈与をしようと思うんじゃよ。わしが死んでしまう前に、あれこれ渡しておきたいもんがあってな…」
あまりの告白に二郎は呆然。
「今度は追加で贈与? 叔父さん、本気ですか…?」
しかし清六は悪びれず、
「ああ、本気じゃ。金は抱えてあの世には行けんからのう。わしの恩返しと考えてくれんかのお?」
と、どこ吹く風。
「ま、まあ、金の使い道は人それぞれですし、そういうこともありますよ…。」
郷行政書士は言葉を濁しながらも、できるだけ冷静に対応しようとしますが、その裏側では頭を抱えていました。
「はあ…結局、熊より叔父さんのほうが強烈だ…。。」
二郎は苦笑しながらため息をつきます。
まさか“死後の準備”の次に“生前の恋”で新たな契約の相談が舞い込むとは、郷行政書士も苦笑混じりに「では、一度ご要望を整理しましょうか…」と再び書類を開くのでした。
こうして、熊退治に始まった“伝説のマタギ”の準備物語は、意外な恋物語へと続き、豪快な清六を中心に、虎震家の周囲はますます騒がしくなっていくのでした。
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