LINE連載 「虎震(トラブル)家の悩める人々~生前対策・花子編」アーカイブ(#5〜#8)
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各エピソードの概要と共に、相続に関するトラブルやその解決策を学ぶことができます。気になるエピソードをチェックし、ぜひLINEでの連載配信にもご登録ください!
目次
虎震(トラブル)家の悩める人々~生前対策・花子編⑤

行政書士の事務所では、花子の激高が静寂を切り裂くように響いた。
彼女は目に涙を浮かべながら、雄介に詰め寄った。
「どうしてこんな大事なことを今まで隠していたの? 私はあなたを信じていたのに!」 「いったい何人子供がいるのよ!?あちこちにいるんじゃなの?」
その場の空気は緊張に包まれていたが、郷行政書士は冷静な表情を崩さず、静かに口を開いた。
「花子さん、実はこういうこと、珍しくないんです。」
彼の言葉に、花子は涙をぬぐいながら顔を上げた。郷は続けて説明を始める。
「相続手続きでも、誰も知らなかった子供や兄弟が突然出てくることも少なくありません。もちろん驚かれるのは当然ですが、大切なのはこれからどうするかです。」
郷の穏やかな口調に、花子の怒りと動揺は少しずつ和らいでいく。
「雄介さんが今、勇気を振り絞って話してくれたこと、それ自体がとても重要なんですよ。」
花子はその言葉を受け、深呼吸をして気持ちを整えようとした。
「でも、これからどうすればいいの? 遺産の話もややこしくなるんじゃないの?」
郷は頷きながら資料を机の上に広げた。
「おっしゃる通りです。今回の件で遺留分権利者が増えることになります。そのため、遺留分に関する対策を考える必要があります。」
「遺留分の対策?」
花子が尋ねる。
「はい。例えば、遺言により花子さんが大半の財産を相続するとします。その場合、他の相続人は、財産をもらえなくなるわけですが、彼らには最低限遺留分という権利が保障されており、花子さんに金銭の請求をしてくることが可能となります。」
「それを遺留分侵害額請求といいます。必ず請求されるとは限りませんが、万が一の請求に備えた計画を立てる必要があります。」
郷は資料を見せながら、さらに詳しく説明を続けた。
花子と雄介は真剣な表情で話を聞き、これからの行動について前向きに考え始めていた。
こうして、波乱の打ち合わせは新たな一歩を踏み出すための重要な場となった。
夫婦間の信頼が試される一方で、家族としてどう歩んでいくべきかを考えるきっかけにもなった。
虎震(トラブル)家の悩める人々~生前対策・花子編⑥

郷行政書士の事務所には、少し張り詰めた空気が流れていた。
資料を見つめる花子と雄介に向かい、郷は冷静な声で提案を続けた。
「遺留分に関する対策として、選べる方法はいくつかあります。まず1つ目は、他の相続人の遺留分相当額を予め遺言で対象者に相続させると指定しておく方法です。
この場合、相続人間のトラブルを防ぎやすくなります。」
「なるほど、それだと争いは減りそうですね…」
雄介はうなずきつつ、まだ不安げな表情を浮かべている。
郷はさらに続けた。
「もう1つの方法は、予定通り花子さんがほとんどの財産を相続し、遺留分請求があった際に備えて金銭を準備しておくというものです。
この場合、予備資金を用意する必要がありますが、遺産の大部分を確保できるメリットがあります。」
雄介は眉をひそめながら考え込む。
「それは分かります。ただ、もし対象者に生前贈与しておけば、遺留分を先払いするような形で解決できるんじゃないかと思ったんですが…それは難しいんでしょうか?」
郷は軽く頷きながら説明を始めた。
「いい質問です。しかし、遺留分侵害請求権というのは、遺言により相続人が自分の遺留分を侵害されて初めて発生する権利なんです。ということは、生前はまだ遺留分侵害の事実がないため、それを事前に先払いするということはできません。また仮に生前贈与したとしても後から遺留分を請求される可能性だってありますよ。」
「そうなんですね…。」
雄介の口調には落胆の色が含まれていた。
花子が口を挟んだ。
「じゃあ、結局どうすればいいの?遺留分の侵害請求を受けないように、何か確実な方法はないんですか?」
郷は資料を指しながら説明を続けた。
「完全に回避する方法はありませんが、リスクを最小限に抑えることはできます。慎重に遺言書の内容を検討しましょう。」
「あとは、『付言事項』(ふげんじこう)という文章を添えるのも良いでしょう。」
「『付言事項』って何ですか??」
雄介は思わず聞き返した。
虎震(トラブル)家の悩める人々~生前対策・花子編⑦

郷行政書士は、花子と雄介の視線を受け止めながら、落ち着いた声で説明を始めた。
「付言事項(ふげんじこう)とは、遺言の本文とは別に、遺言者の想いや意図を伝えるための補足的な文章です。法的な拘束力はありませんが、遺産分割の背景や相続人へのメッセージを残すことで、相続トラブルの防止に役立つことが多いんです。」
「法的拘束力がないなら、あまり意味がないんじゃないですか?」
雄介が少し疑わしげな表情で尋ねた。
郷は微笑みながら首を横に振った。
「そうとも限りません。付言事項があることで、相続人が遺言の意図を正しく理解し、感情的な対立を避けることができる場合が多いのです!」
「具体的には、どんな内容を書けばいいんでしょうか?」
花子が興味深そうに尋ねる。
郷は資料をめくりながら説明を続けた。
「例えば、次のような内容・構成が考えられます。」
1. 遺言の理由を明確にする
「私は、長年にわたり花子が私の介護や生活の支援をしてくれたことに感謝しています。そのため、花子に多くの財産を相続させることにしました。」
2. 他の相続人へ自分の希望を伝える
「私の大切な家族のみんなが、私の意志を尊重してくれるととても嬉しいです。」
3. 感謝の気持ちを伝える
「家族のみんな、今まで本当にありがとう。幸せな人生でした。」
「このように、なぜ特定の相続人に多くの財産を残すのかを説明し、他の相続人への配慮も記すことで、遺留分の請求を抑制する効果が期待できます。」
「なるほど…感情的な衝突を減らす効果があるんですね。」
雄介が納得したように頷いた。
「その通りです。もちろん、完全に遺留分の請求を防ぐことはできませんが、相続人が納得しやすく、トラブルが起こりにくいでしょう。単なる財産分けの指示ではなく、相続人への最後のメッセージでもあります。しっかりと考えて作成しましょう。」
「これは、ぜひ取り入れた方がよさそうですね。」
雄介と花子は顔を見合わせ、小さく頷き合った。
虎震(トラブル)家の悩める人々~生前対策・花子編⑧

2週間後、公証役場の静かな一室で、雄介と花子は郷行政書士の立ち会いのもと、正式な遺言の作成を終えた。
公証人の前で署名を済ませた雄介は、ホッとした表情を浮かべた。
「これで、一安心ですね!」
郷が優しく微笑みながら声をかける。
「そうですね。これで万が一のときも、ちゃんとした形で財産を残せます!」
雄介も満足げに頷いた。
花子も安堵の表情を浮かべる。
「遺言の原本は公証役場で保管されますので、何か変更が必要になった場合はいつでもご相談ください。」
郷が最後の説明を終え、手続きを締めくくろうとしたそのときだった。
──ピコン。
雄介のスマートフォンが鳴った。
何気なく画面を確認した瞬間、彼の表情が凍りついた。
【雄たん💖 今日はいつ会える?早く会いたいな🥰】
送信者は「美咲」。
その名前を見た瞬間、花子の目が鋭く光った。
「……美咲って誰?」
室内の空気が一変した。
■ 修羅場勃発
「え、いや、その……」
雄介の動揺ぶりは明らかだった。
「何その絵文字?『雄たん💖』?『早く会いたいな🥰』?え?どういうこと?」
花子の声は冷たく、しかし内に怒りを秘めていた。
郷行政書士は「ああ、これは巻き込まれたくない案件だ」と直感し、そっと席を外そうとしたが、花子がすかさず振り向いた。
「先生、ちょっと待っててください!」
郷は心の中で(やっぱり無理か……)とため息をついた。
「……説明してもらえる?」
花子の静かながらも迫力のある声に、雄介は追い詰められていく。
「いや、これはその……ただの知り合いで…….。」
「知り合い?『雄たん』って呼ぶ知り合い?」
「……」
雄介は言葉を失った。
「この遺言って、誰のために作ったんだっけ?」
花子がスマホを覗き込みながら、雄介を睨みつける。
「財産をしっかり守るために作ったんだよね?まさか、愛人にも渡そうとか思ってないよね?」
「そ、そんなことは考えてない!」
「じゃあ、何?美咲には何も渡さないってことね?」
「……」
郷行政書士は(これは長引くな)と悟った。
■ 遺言だけでは解決できない問題
30分後、郷行政書士の事務所には、疲れ果てた雄介と怒りが収まらない花子がいた。
郷は最後に、一言だけ付け加えた。
「遺言も大事ですが……身辺整理も、大事ですね。。。」
雄介はぐったりと肩を落とした。
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